10423338_660480230700709_58030714_n.jpg


クライエント中心療法 一覧


傾聴は徹底的に叩き込まれても、ロジャーズの理論そのものについては、ほとんど教えられていない

今回はカール・ロジャーズの話です。
ロジャーズは日本ではカウンセリングの神様と称されるほど評価の高い心理療法家で、彼の提唱した傾聴(非指示的療法)はカウンセリングの基本であるとして多くの研修機関において必須とされ、またその研修を受けたカウンセラーによって実践されています。
おそらく日本のカウンセラーの大多数がロジャーズ派と言っても過言ではないでしょう。

ところが傾聴についてはカウンセリングの基本中の基本だからとして徹底的に叩き込まれても、その提唱者であるロジャーズの思想については通常ほとんど教わることはありません。

例えば、なぜ傾聴するのかについての説明として私が覚えているのは、そうすることでクライエントは自分のことを深く理解してもらえたと感じ、そのことで自己不一致の状態から脱して自己一致の状態を取り戻し、その結果自己治癒力が高まり自ずと解決策を見出す、だから傾聴に徹して他の余計なことは一切してはならないということくらいです。

しかし開業後、本などからロジャーズの思想に触れるようになるにつれ、彼がなぜ(少なくても当初は)傾聴にこだわっていたのかが私なりに理解できるようになりました。
今回はその点について書かせていただきます。

「真実の自己」になることがセラピーの成功

マイケル・カーン著『セラピストとクライエント』の中に、次のような記述があります。

クライエントは真実の自分でいるのでは受け入れられないと、これまで巧みに教え込まれてきたゆえに問題を抱えているのだ、
(中略)
セラピストが注意深く耳を傾けるにつれ、クライエントは徐々に自分自身がありのままでよいのだと分かるようになる。真実の自己になるのが人生の目的であるゆえに、セラピストからクライエントに差し出せる最高の価値がなぜ自己受容であると見なしていたか、これは実に分かりやすいであろう。(P.61)

これは既述の「自己一致-自己不一致」に関する説明です。
人間は様々な人生経験から自己不一致を強いられ、それゆえ自己一致した状態を取り戻すのがセラピーの目的であると想定されています。

この説明に関しては「自己不一致」をもたらす有害な環境の働きかけが、どのようなものと想定されているのかが気になりますが、それを示唆する記述がロジャーズ自身の著書にありました。

子どもを心理的に完全な存在と考えていたロジャーズ

「個人に対する尊重」
有能な心理療法家の第二の資質は、子どもの完全性を真に尊重することである。子どもが自分自身で選択した目標に向かって、自分のやり方で成長を遂げるために真の援助をしなければならない。矯正しようとする熱意に満ちた心理療法家や、無意識に子どもを自分の描くイメージに当てはめようと躍起になる心理療法家には、こうした関係を築くことはできない。
子どもをあるがままに、その子自身の適用レベルで受け入れ、自分の問題を自分で解決できような自由を与えてやる意欲がなければならない......。(『カウンセリングと心理療法-実践のための新しい概念』P.230)

ここで子どもの完全性について「真に」という言葉が添えられていることから、これは単なる比喩ではなく文字どおりの意味であることが窺えます。
そしてこれに「自己一致-自己不一致」の概念を重ね合せますと、(究極は生まれたばかりの)子どもは自己一致した完全な存在であるのに対して、環境の影響により自己不一致を強いられる大人は不完全な存在であり、それゆえセラピーの目的は失われた子どもの状態を取り戻すことであると考えられていたことが窺えます。

だと致しますと、子どもに変化を促すあらゆる行為、例えば躾(しつけ)のようなものまでが自己不一致をもたらす有害なものと考えられていた可能性があります。
そしてそれを示唆するような記述が別の本にありました。

躾さえも自己不一致をもたらす有害なものと考えられていた可能性を示すロジャーズの養育態度

諸富祥彦さんの『カール・ロジャーズ入門―自分が"自分"になるということ』の中に、ロジャーズ自身の子育てに関する次のような記述があります。

興味深いことにロジャーズ夫妻は最初、ワトソン流の行動主義にしたがって子育てをしようとしました。気持ちや体の触れ合いをせず、スケジュールどおりに育てようとしたのです。

行動主義は人間の心の働きをすべて「刺激に対する反応」として理解しようとする、機械論的な人間観を特徴としています。
このような人間観を反映した生理学の知見のみに基づくような機械的な育児方法を、ヒューマニズムに溢れる心理療法を生み出したロジャーズが行ったとは信じがたいかもしれません。

ですが生まれながらに人間の心は完成されており、それが環境の作用によって損なわれていくと考えていたのであれば、その完成された状態を維持するために、できるだけ干渉を避けるべく心の触れ合いを避けようとしたと考えれば辻褄が合います。

一般的に傾聴は、フォーカシングの創始者のジェンドリンらと行ったカウンセリングの効果に関する大規模な調査の結果から生まれたものと考えられているようですが、これまで考察しましたようにそれはロジャーズの確固たる人間観を色濃く反映してもいるというのが私の考えです。

カール・ロジャーズの人間観 参考文献

マイケル カーン著『セラピストとクライエント―フロイト、ロジャーズ、ギル、コフートの統合』

C.R. ロジャーズ著『カウンセリングと心理療法―実践のための新しい概念(ロジャーズ主要著作集1)』

諸富祥彦著『カール・ロジャーズ入門―自分が"自分"になるということ』

C.R. ロジャーズ著『カウンセリングと心理療法―実践のための新しい概念(ロジャーズ主要著作集1)』


昨日の投稿「ミルトン・エリクソンの心理療法-出会いの三日間~個別的なセラピー実践のための手引き」でカール・ロジャーズとミルトン・エリクソンのスタイルの違いについて書きましたが、その違いを生んでいる最も大きな要因は、治療機序(クライエントさんが良くなって行く過程)に対する認識、およびそれを生み出している信念の違いにあると思われます。

誰にでも共通する治療的要因があると考えたロジャーズ

ロジャーズは共同研究者のユージン・ジェンドリン(フォーカシングの創始者)らと共に大規模なカウンセリングの調査を元に「共感的理解」「無条件の受容」「自己一致」というカウンセラーに必要な3条件を見出しましたが、このような調査を行った目的は成功したカウンセリングに共通する治療的要因を見つけ出すためでした。

これはいたって常識的な考えに思われるかもしれませんが、このような調査を行う動機の背後には「どんな人にでも共通する治療的要因があるに違い」という信念が存在しています。
なぜならもし治療的要因は人それぞれに異なると考えたならば、このような共通因子を探ろうとは決して思わないはずだからです。

ですから極論すれば、ロジャーズは人間の心の治癒あるいは成長の形には、ある決まったパターンがあるに違いないと考え、それを見出すために研究を重ねたと考えられます。
今日興隆を極めるエビデンスという考え方も、このロジャーズと同じ信念のもとに形成されたものです。
そこで重要視されているのは共通点であり、個人差ではありません。

治療的要因は人それぞれに異なると考えたエリクソン

一方のエリクソンは、ロジャーズとは逆の考え方をしました。
昨日紹介した「ミルトン・エリクソンの心理療法-出会いの三日間」の序文には次のように書かれています。

患者は、個々のニーズやそれぞれ独自の防衛によって動機づけられているので、伝統的で創造力を欠いた型にはまった対応よりは、その人個人に合ったアプローチを必要としていた。

この一文はエリクソンが治療的要因は人それぞれに異なるため治療的要因に関するエビデンスなるものは存在せず、むしろ個々人によって異なるため、その個々人にユニークな治療的要因に合わせて介入方法も変えるべきだと考えていたことを示していると思われます。

以上のように治療的要因に対する両者の決定的な考え方の違いが、昨日の記事のカウンセラーの(唯一存在する)理想的な態度を想定し、その理想的態度を身に付けるためにトレーニングに励む必要性を説いたロジャーズと、そのような画一的な態度やトレーニングを一切否定し、クライエントの利益のために(極論すれば一切の理論的前提を捨てて)出来るだけ柔軟に振る舞う必要性を説いたエリクソンとの違いを生み出しているのではないかと考えられます。

参考文献:ミルトン・エリクソンの心理療法-出会いの三日間/ジェフリー・K・ザイク


人によってロジャーズの理論の解釈がまちまち...

先日、心理学のお勧め本として投稿しました「セラピストとクライエント-フロイト、ロジャーズ、ギル、コフートの統合」にはタイトルにもありますとおりC・ロジャーズの技法(クライエント中心療法)の話が出てきます。
またこの他にも「カール・ロジャーズ入門―自分が"自分"になるということ」「パーソンセンタード・カウンセリングの実際―ロジャーズのアプローチの新たな展開」「パーソン・センタード・カウンセリング」などの本でロジャーズの理論に触れてきましたが、そのいずれもロジャーズの推奨する技法や彼の信念(人間観)に関して微妙なズレを感じ、一体どの話が的を得ているのかよく分からなくなってきました。

ロジャーズの本当の考えを知るべく「カウンセリングと心理療法」を購入

そこでロジャーズの本当の考えを知るべく彼自身の著書をもう一度詳しく読んでみることにしました。

ロジャーズの著書は著作集も含めて翻訳本だけでもかなりの数になりますが、本屋でざっと目次を読んだ限り、私が一番知りたい技法に関する内容がまとまって掲載されていそうな本がこちらの「カウンセリングと心理療法」でした。
面接時間の長さなど、カウンセリングの構造的な部分にまで考察が及んでいます。

なお以前にFBページの方に書きましたように、技法には開発者その人の「人間観」が深く滲み出ていますので、余裕がありましたら第2巻の「クライアント中心療法」だけでなく、第3巻の「ロジャーズが語る自己実現の道」も読まれることをお勧め致します。

カウンセリングと心理療法―実践のための新しい概念 (ロジャーズ主要著作集)@アマゾン通販

DSC01342_f.jpg

このページの上部へ

カウンセラー プロフィール

田尻健二
保有資格:
産業カウンセラー
米国NLP協会TM認定NLPマスタープラクティショナー
プロフィール詳細


サイト内検索

最近のエントリー

  1. 自己愛的な人が感情を持たない冷酷な人間との印象を与えるのは誇大モードにある時だけ〜自己愛講座37
  2. 共依存的な関係にあるDVの被害者のニーズの1つは「加害者を変えたい」というもの
  3. 共依存的なDVの被害者は、関係を断つためには加害者の許可が必要と考えている人が多い〜ドラマ『きみが心に棲みついた』を例に
  4. 弁証法的行動療法におけるマインドフルネスと、一般に広まるリフレッシュ法としてのマインドフルネスとの比較
  5. 私説:リハネンが開発した弁証法的行動療法におけるマインドフルネスの技法と効果
  6. サイコパス(反社会性パーソナリティ)と自己愛性パーソナリティの共通点と相違点
  7. 境界性パーソナリティの人の、周囲の評価を二分する傾向〜ドラマ『きみが心に棲みついた』と私の実体験を例に
  8. 境界性パーソナリティと自己愛性パーソナリティの対人依存の特徴の違い〜ドラマ『きみが心に棲みついた』の主人公の心理を例に
  9. 境界性パーソナリティの「見捨てられ不安」の特徴〜ドラマ『きみが心に棲みついた』の主人公の心理を例に、自己愛性パーソナリティと比較
  10. スプリッティングは衝動的な行動や絶対服従的な態度を誘発してしまう〜『きみが心に棲みついた』の主人公の心理を例に

全ての記事一覧を見る

カテゴリ




このHPとは異なる情報をFBページにも投稿しておりますので、こちらもフォローしていただけますと嬉しいです↓

最近のピクチャ

  • マーシャ・M. リネハン著『弁証法的行動療法実践マニュアル』