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DV(ドメスティックバイオレンス) 一覧


共依存的なDVの被害者の方が支援者に期待することが今回のテーマ

前回の「共依存的なDVの被害者は、関係を断つためには加害者の許可が必要と考えている人が多い〜ドラマ『きみが心に棲みついた』を例に」に引き続き、今回も共依存の傾向が見られるDVの事例について検討します。

前回の記事では、DVの被害に遭われている方の中には、加害者の暴力から逃れるために別れるには、その加害者から別れることに納得してもらう必要があると考えており、その考えが別離を難しくしている点について触れました。

今回は、そのようなお考えを持つ方がDVの支援者に期待することについて考察します。
前回の記事でも指摘しましたが、少なくてもそれは「無理やりにでも引き離して欲しい」ということではないようです。

補足)前回の記事と同様、考察対象を明確にする目的で、加害者・被害者という用語を使用しています。

共依存の傾向が見られるDV相談で求められるアドバイスの特徴

今回のような共依存の傾向が見られるDV相談のケースでは、求められるアドバイスの多くが次のようなものである傾向があります。

  • どうしたら相手に別れることに納得してもらえるか
  • 相手が暴力や暴言をやめてくれるようになるためには、どのように接したら良いか

共依存的なDVの被害者の方の願いは恐らく「加害者を変えたい」ということ

上述の2つの願いに共通しているのは、変化させたい対象が自分に危害を加えている加害者であるということです。
これは関係が絶たれるにせよ維持されるにせよ、加害者が変わることで問題は解決すると相談者の方が考えていることを意味します。

DVの支援に関するセオリーに固執すると支援に失敗してしまう

しかし残念ながらDVの支援に関するセオリーは、加害者と被害者とを速やかに引き離すというものであり、前述のような相談者の方のニーズは考慮されていません。
ですからこのミスマッチが、支援が失敗するケースの一因となっていると考えられます。

私自身も当初はそのセオリーに固執するあまり、必死に説得するような展開となってしまい、相談者の方と対立するばかりになってしまいました。

次回はその相談者の方の願いでもある加害者を変えることについて考察する予定です。


今回の記事はまたドラマ『きみが心に棲みついた』の考察に戻ります。
現実社会で生じている事例にも参考になる展開が見られたためです。

星名と決別するために、その星名の無理難題を聞き入れる今日子

今回参考にするのは、主人公の今日子が交際相手の吉崎に、仕事と嘘をついて元彼の星名とデートをし彼のマンションまで行き、後ほどそのことが吉崎にバレて別れを切り出されることになってしまった第8話から9話にかけての出来事です。

このような事態になってしまったのも、星名から「最後に1日デートで付き合ってくれたら、もう関わらないと約束する」旨のこと言われ、その要望に従ったためです。
しかしこれらのシーンを見て「そんな無理難題を聞き入れる必要はないはず」、あるいはこれまでの星名の言動から「そんな口約束は信じられない」などと思われた方もいらっしゃるのはないでしょうか。

支援を受けてもDVの加害者から逃れられないケースでは、共依存がその一因

実はこの今日子と似たような思考あるいは行動のパターンが、DVの被害者の方によく見受けられます。

DVの被害者の方が何らかの理由から加害者の元を離れたいと思っても離れられない場合に最初に支援を求めるのは、多くの場合カウンセリングサービスではなく警察や自治体の機関、あるいは法律相談やシェルターなど民間の支援団体のようです。
ですからDVの相談で私のカウンセリングルームを訪れる方の多くは、それらの支援が役立たなかった場合です。

そしてその支援が役立たなかった理由の典型が「支援の内容が加害者から引き離すこと」のみであることへの不満です。

※この不満の内容からも、支援を受けてもDVの加害者から逃れられないケースでは、共依存がその一因となっていることが推測できます。

補足)考察対象を明確にする目的で、加害者・被害者という用語を使用しています。

共依存的なDVの被害者は、関係を断つためには加害者の許可が必要と考えている人が多い

そこで相談者の方から詳しくお話を伺うと、前述のような不満を感じていらっしゃるのは、離れることを相手が許すはずがなく、したがってその許されるはずがないことを無理やり実行することを促すような支援では役立たないとお考えであることが分かってきます。

つまりこのようなDVのケースでは、加害者の方は別れるためには加害者の許可が必要であるかのように考えていらっしゃることが推測され、この点が冒頭で紹介したドラマ『きみが心に棲みついた』の今日子の星名に対する態度と似ています。
今日子も星名から離れるためには、その星名に納得してもらうために、星名のいうことを「何でも」聞かなければならないと考えているようだからです。

主体性の乏しさが相手に容易に支配される一因になっている

また両ケースから感じられるのは主体性の乏しさです。

自分の意思が存在しないか、もしくはあっても相手の意思ほどは価値がないものと思っていると、常に相手の欲求の方が優先されることになり、どんなに苦痛なことでも渋々それに従うことになってしまいます。
この点は、大学生の時にビデオで撮影された行為や、ファッションショーの出来事など、これまでの今日子の人生にかなり当てはまるのではないでしょうか。

主体性の乏しさが改善しないと、いずれまたDVの被害に遭う可能性がある

以上の考察から、DVでは、もちろん加害者に一番の問題があるとしても、被害者の方も、いつまでも主体性が乏しいままではDVのターゲットにされやすい状態が続くため、またいずれ同じような被害に遭ってしまう可能性があると考えています。
こうした方々に必要なのは、少なくても容易に他人に支配されない程度に自己主張できる主体性を身につけることです。


前回の記事では、TBSで放送中のドラマ『きみが心に棲みついた』の主人公の様子が、境界性パーソナリティの心理を非常に巧みに表していることと、その特徴の1つとしてスプリッティングと呼ばれる防衛機制の働きについて述べました。

予定では今回は境界性パーソナリティの別の特徴について触れる予定でしたが、その前にスプリッティングの作用がもたらす深刻さを十分に記述できていなかったため、今回はその点について補足的な記事を書きます。

前回の記事でも指摘しましたように、境界性パーソナリティの人は、例えば何かをしたい気持ちと、それをしてはいけない状況というような対立する内容が心の中に生じた際に、その葛藤に耐えられないため2つを内容を心の中で完全に切り離し、さらにその片方だけを意識することでストレス状態を解消する傾向があります。

思考や感情が断片的に生じるため、総合的な判断ができない

この思考や感情の片方だけが意識される、言葉を変えれば片方しか意識できないという状態は、境界性パーソナリティの人を一時的にはストレスから救うことにはなっても、中長期的には大変な不利益をもたらします。

なぜならスプリッティングの作用のために、様々な事柄を関連づけて考えることが困難なため、その時々に思い浮かんできた、それも部分的な思考や感情のみによって行動せざるを得なくなってしまうためです。

このような状態を精神分析家のトーマス・オグデンは「歴史なき」と表現しました。
この表現は、ある瞬間に生じた思考や感情が、その直前に生じていた思考や感情と何ら関連性がなく、瞬間瞬間の断片的な自己が存在するだけの状態を言い表しています。

スプリッティングによる自己の断片化の具体的な表れ

続いて、このスプリッティングの作用がもたらす自己の断片化の具体的な現れについての説明に移ります。

先ほど境界性パーソナリティの人が耐えられない葛藤について説明致しましたが、その葛藤は「欲求」と「その欲求と相容れない要因」との対立と一般化することができます。
そしてスプリッティングの作用はこのいずれか一方を意識の外に追いやることですから、2つのパターンが存在することになります。

スプリッティングの作用のパターンその1〜衝動的な行動

スプリッティングが作用するパターンの1つめは、欲求と相容れない要因が無意識化されるケースです。
この場合、境界性パーソナリティの人の心の中は欲求のみとなります。つまりそれを阻むものが何もない状態です。
その結果、欲求の赴くままに様々なことが衝動的に行われることになります。

この衝動性が境界性パーソナリティへのネガティブな印象を生み出す最も大きな要因と考えられます。
また、それだけでなく、その衝動的な行動が意図的なものと誤解されることで、悪意に満ちたものと解釈されることにもなってしまいます。

このパターンは『きみが心に棲みついた』では、主人公の今日子の、相手への迷惑のことなどまったく考えず欲求の赴くままの行動に、桐谷健太さん演じる吉崎が幾度となく振り回されることに典型的に表れています。

スプリッティングの作用のパターンその2〜絶対服従

スプリッティングが作用するパターンの2つめは、欲求が無意識化されてしまうケースです。
この場合は他人や社会からの要求のみで心が満たされてしまい、その要求に抵抗することができなくなってしまいます。
(「したくない」「嫌」というのも欲求の1つです)

その結果、絶対服従とも言える、完全に相手の言いなりになってしまう状態となります。

『きみが心に棲みついた』では、このパターンは主人公が元彼の星名からの無理難題に対してほとんど無力でいつも言いなりになってしまっている点に典型的に表れています。
ただし主人公は比較的健全な境界性パーソナリティと想定されるため、嫌という気持ちに多少気づけていますが、境界性パーソナリティ障害の診断基準を満たすほど重症の方は、その自覚すら難しいと考えられます。

このように境界性パーソナリティの人は、自己愛性パーソナリティの人と共通に有する承認欲求の強さ他人から嫌われることへの恐れに加えて、嫌という気持ちさえ感じられなくなることで、自己愛性パーソナリティの人以上に容易に他人からの支配を受けてしまう傾向があります。

以上、今回の記事では『きみが心に棲みついた』の主人公の今日子を行動を例に、境界性パーソナリティの人の心に頻繁に生じるスプリッティングの作用の具体例を、欲求とそれに相反する要因の2つの無意識化によってパターン別に考察しました。

次回はいよいよ前回の記事の最後で告知した、自己愛性パーソナリティの人の心に生じているスプリッティング以外の事柄について考察する予定です。

境界性パーソナリティの心理 参考文献

ナンシー・マックウィリアムズ著「パーソナリティ障害の診断と治療」、創元社、2005年
G.O. ギャバード著『精神力動的精神医学―その臨床実践「DSM‐4版」〈3〉臨床編 2軸障害』、岩崎学術出版社、1997年
トーマス・H. オグデン著『「あいだ」の空間―精神分析の第三主体』、新評論 、1996年

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カウンセラー プロフィール

田尻健二
保有資格:
産業カウンセラー
米国NLP協会TM認定NLPマスタープラクティショナー
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